シアターキノのサポーター店としてお勧めの映画を紹介します。現在上映中のフィンランド映画「コンパートメントNo.6」は必見です。
2021年の映画ですが、まだ社会主義時代の名残が強く残っていた90年代のロシアを細かいところまで忠実に再現しています。(列車の内部、自動車、公衆電話、通話の音質、ホテルの調度品、制服、建物など)
インターネットもスマホもない、あまり豊かではなく不便ではあるけれども、人情味に溢れた人々が助け合って生きていた時代が、フィンランド人留学生の体験を通じて、リアルに描かれています。
この映画の、さりげなく情感豊かなところが、カンヌ音楽祭グランプリ受賞の理由のように感じます。
私は1991〜1992年にサンクトペテルブルクに留学し、90年代にも何回も訪れているので、映画が描いている世界がものすごく良くわかります。
この映画の主演女優もサンクトペテルブルクで演劇を勉強した人で、映画の役に個人的な経験がダブっていることと思います。フィンランドとロシアは隣同士で、特にヘルシンキとサンクトペテルブルクは人の行き来も多く、互いに馴染みのある関係です。私もヘルシンキは5回ほど行ったことがあります。
以下、ピックアップしたシーンの説明に私の経験を交え、参考写真を添えて、見所を紹介します。(ストーリーの紹介は省略していますが、細かいところのネタバレ注意。しかし、面白い場面を見逃さないためにはいいかも。)
・映画冒頭のモスクワ大学?をイメージしたインテリ集団のパーティーの雰囲気。すごく優秀な人もいるけれども饒舌だが支離滅裂な人もいる不思議な世界。
・寝台車はコンパートメント丸ごと予約しない限り、知らない人と相部屋になってしまう。ソーセージなどを持ち込んでウォッカを飲むのは普通の風景。居合わせた誰にでも話しかけてすぐ酒盛りになる。主演俳優の動作や話し方など、いかにもこんなやついるいると思ってしまう見事な演技。
・上段のベッドはすごい高いところで、よじ登るのが大変。ロシアは線路の規格が日本と異なり、車両はひとまわり大きい。線路の整備状況が悪いので凄く揺れる。(映画では揺れは表現されていない。)落ちないように注意。
・寝台車には無愛想な車掌のおばさんが乗っている。一般にロシア人に愛想笑いはない。でも大丈夫かいと後で心配してきたように、本当はなかなかいい人だったりする。
・車掌の席の近くで給湯ができ、お茶を入れられる。洗面台などで水が出ないのはよくある。トイレに紙がないのが普通なので(鉄道側で用意したとしても誰かが持って行ってしまう。)自分で持ち込む。映画でもソーセージが乗ったテーブルの上にトイレットペーパーのロールも乗っていた。
・公衆電話は屋外で横並びに何台も設置されているパターンが多い。行列ができていることも。ボックス型は少ない。早く空けろと文句を言う人はよくいる。
・レストランでメニューを見て注文しようとするたびに「ない」と言われ、何があるの?と聞くのは定番の会話。交渉するとないはずのものが出てきたりすることも。交渉して酒をボトル買いする人はよくいる。他の客にそれって美味しい?と聞く客も実際にいる。
・客を家に招くのが好きな人が多い。すぐウォッカで酒盛りになる。典型的なマトリョーシカ体型のおばさんはなかなかいい人が多い。酒も飲む。ロシア人はアネクドートというオチのある小話を考えて互いに披露するのが大好き。社会主義時代からのネタの典型は政府のダメさ加減を笑い飛ばす内容の小話。楽しい。
・都会では似たようなデザインのアパートがたくさんあって、普通はその一室に住んでいる。暖房はお湯のセントラルヒーティング。田舎では木造の一軒家が多い。古い家はペチカなどあり風情もある。
・途中で乗車してきて一時コンパートメントで同居するドライでアメリカンな雰囲気のフィンランド人の場違い感が面白い。列車内は盗難が多発するので要注意。
・ホテルの受付で予約がないと言われるのは起こりうる事態。映画の場合は予約名義の問題だったが、単にホテル側のミスの場合も多い。冷たく泊まれませんと言われても予約証を見せながら頑張るしかない。ホテルの受付が座って応対するのは普通。
・困っていると損得抜きで知り合いを動員して力になってくれたりする。社会がうまく機能せず、一見当たり前のこともうまく進まないのが普通なので、日頃からコネを動員して互いに助け合って解決する習慣がある。何事もうまくいかないのが普通の社会だが、不可能が可能になることもしばしば。映画でもペトログリフを見に行くのは無理に思われたが、行くことができてしまう。
以上が個人的に選んだこの映画の見所です。
ムルマンスクはオーロラを見ることができる名所として知られているので、ラブストーリーとしてオーロラの場面を予想しながら見ていましたが、最後まで出ませんでした。
そう言えば、モスクワやサンクトぺテルブルクの街並みも映らず、ペトロザボーツクはオネガ湖のキジー島に木造教会を見に行く人が行くところ(なので列車が一泊)なのにキジー島観光もパスしています。
結局、この映画はあえて観光スポットを全てスルーして、その代わりに人の温かさを全体的な雰囲気として描いているのだと思います。劇的な展開が特にないのもこの映画の良さかもしれません。
ありのままのロシア人の姿をフィンランド人の手で描いているのがこの映画の面白いところで、ある意味ロシア人によるロシア映画より雰囲気が出ています。
雰囲気と言えば、Voyage Voyage という Kate Ryan の曲が非常に効果的に使われています。歌詞(フランス語)も、Plus loin que la nuit et le jour 夜と昼を超えて Voyage, dans l’espace inouï de l’amour 愛の驚くべき空間で、と映画にぴったりです。
このブログでこの映画に興味が湧いた方は是非映画館でご覧ください。
また、当店「レスプレ しよーね」に是非お越しください。
カフェコーナーにはこの映画に関係ありそうな本がたくさんあります。
フレンチポップスもBGMで流しています。( Voyage Voyage も聴けます)
雑貨コーナーにはフィンランド雑貨、ロシア雑貨もあります!
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